「エンジニアの人生=エンジニアライフ」に役立つ本を紹介します。

メルヘンなのに本格派すぎる“小悪魔”エンジニアの魔力――『小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記』

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小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記 小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記 ――インターネットやサーバのしくみが楽しくわかる

aico(著)
村井純 (監修)
技術評論社
2011年1月

ISBN-10: 477414522X
ISBN-13: 978-4774145228
2079円(税込)

 2010年夏、サーバ技術を解説したとあるブログが話題になったことを覚えているだろうか。gothedistance氏がブログで紹介したことがきっかけとなり、Twitterやはてなブックマークで話題となった『小悪魔女子大生のサーバエンジニア日記』である。本書はブログを再編集し、「日本のインターネットの父」と呼ばれる村井純氏が監修したものだ。

■やっぱり知っておきたい、サーバやネットワークのこと

 さまざまなシステムを構築するときに、サーバは必要だ。一言にサーバといっても、Webサーバやデータベースサーバ、メールサーバにDNSサーバなど、さまざまなものがある。サーバと各クライアントが接続できるのは、ネットワークのおかげだ。ユーザーがサービスを利用できるのも、ひとえにサーバやネットワークが正常に動作しているからである。

 本書では、これらサーバやネットワークについて、“小悪魔女子大生”ことaico氏が解説している。

■「見た目にだまされた……」

 わたしがこの本を読んだ、最初の感想がこれだった。

 表紙はもちろんのこと、中身についても「イラストが多い」という前情報があったため、「入門書レベルの内容で、エンジニア向けではないのだろう」と思い込んでいた。だが、読んでるうちに理解した。「これは立派な技術書だ」と。

 ネットワーク技術に関する普通の例え話を読んでいたつもりが、いつの間にか本格的な技術論になっていた……なんてことがよくあった。その行程に不自然なところはなく、ウサギやクマに見事に乗せられた。

 メルヘンなウサギやクマの世界に油断していると、一気に電脳世界に連れていかれる。れこそが小悪魔女子大生の魔法であり、いい意味でだまされた。

■小悪魔女子大生と一緒に学ぶ、サーバやネットワークのこと

 本書では以下の内容について、小悪魔的な解説が繰り広げられる。

  • chapter1 インターネットのこと
    TCP/IPの基本的なことや、ルーティングなどネットワークの解説
  • chapter2 DNSって何?
    DNSの役割や正引き・逆引きといった仕組みの解説
  • chapter3 メールのこと
    POPやIMAPからSMTP-AUTHの仕組み、導入される経緯の解説
  • chapter4 WorldWideWebのこと
    WWWの歴史や仕組み、SSL通信の解説
  • chapter5 サーバ管理のこと
    サーバエンジニアのお仕事や、各種暗号化方式の解説

 上記を見ても分かるように、基本として押さえておきたいサーバやネットワークの解説が凝縮されている。chapter1の内容を押さえておけば、最近話題となった「IPv4枯渇問題」のニュースについて、より理解が深まるだろう。また、chapter5の各種暗号化方式についての解説は、ぜひとも押さえておきたいところだ。

■難しいことを、いかに分かりやすく伝えるか

 ITエンジニアにとっては当たり前なことでも、一般ユーザーにとって理解が難しいことは、世の中に数多くある。それらの事柄を「分かりやすく伝える」スキルは、営業職であれ技術職であれ必要だ。難しいことをそのまま伝えても、その技術の必要性や有用性は説けない。その点を、本書は見事にクリアしてみせた。

 確かに、本書にはウサギやクマなどのイラストがあふれている。仕事中にそのまま使えるかといえば「ノー」だろう。だが、本書から読み取った内容を、自分の言葉に置き換えて説明することはできる。

 本書からは、サーバの知識やネットワークの知識だけではなく、技術を伝える手法についても学べる。ぜひ、本書から得た知識を、技術的な知識を持たない人に説明してみてほしい。そこでまた、この本の奥の深さを知ることになるだろう。

■こんな人にオススメ

  • IPv4枯渇のニュースを聞いて「ん? なんのこと?」と思った人
  • 4月からIT業界に飛び込む新卒エンジニア
  • ネットワークやサーバ管理初心者

には特に読んでいただきたい1冊である。本書で広く浅く知識を身に付け、そこからステップアップしてほしい。

 また、LTやプレゼンテーションをするエンジニアにもおすすめできる。小悪魔女子大生はストーリー展開がうまく、彼女のストーリー展開スキルをLTやプレゼンテーションに持ち込めば、かなり有効に活用できるだろう。

 最後に、ユーザー側の人にも読んでもらえれば、と思う。「常時インターネットに接続してWebサービスを利用できる裏側には、このような世界が広がっている」と知るきっかけになれば、Webシステム開発者であるわたしにとっても、うれしい限りである。

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