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小説「あるエンジニアのクリスマス・キャロル」(4)

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2010年12月23日(木)

 今日は祝日で休み。しかし、矢崎は一昨日、昨日と夜に起こった出来事に元気が出ずにいた。しかし同時に、彼は堂々としている決意を固めた。

 「過去、現在ときた。絶対、最後の精霊は『未来のクリスマスの精霊』だろう。もう何を見せられても動揺はしないぞ」

 そう心に誓いながら、矢崎は夜を待った。

 そして、深夜0時。

 精霊が現れた。しかし、今までの精霊と大きく違う姿をしていた。黒い装束を纏い、まるで精霊というより、死神と言った方が近いとも思えるような姿だった。

 「貴方が『未来のクリスマスの精霊』ですね?」

 矢崎が問うが、精霊は何も答えない。

 「もう私は心の準備はできています。さぁ私をどこへでも連れていってください」

 そう矢崎が言うと、精霊は矢崎の近くへ寄っていった。その瞬間、矢崎の周囲が闇で覆われた。

☆★☆

 覆われた闇が晴れ、矢崎の周囲には「未来の街」と思われる光景が広がっていた。するとすぐに、3人の主婦らしき女性たちが何か話をしていた。

 「ホント、急逝だったそうですよ」

 「過労死だったみたいですね」

 「ご友人もおられなかったみたいですよ。弔問にはほとんど誰も来てなかったみたいですし」

 「仕事ばかりの人生だったんでしょうね。かわいそうに」

 そんな話が矢崎の耳に聴こえてきた。未来のクリスマスで誰かが亡くなった。しかし、矢崎には誰が亡くなったかまでは、分からなかった。

 「誰が亡くなったんですか?」

 矢崎は精霊に問いかけるものの、相変わらず未来の精霊は何も喋らない。するとその精霊は、また矢崎の周囲を闇で覆うのであった。

☆★☆

 次に闇が晴れると、そこに広がる光景に矢崎は恐怖を覚えた。誰もいない空間に棺だけが置かれているのである。

 「あの中に、さっき誰かが『死んだ』と言っていた人が入っているのですか?」

 矢崎がまた精霊に話しかけるが、やはり精霊は一言も話さない。ただただ、棺の方を指差し、さも「中を観ろ」と言っているような感じを矢崎は受けた。

 その通りに、矢崎は棺の方へ向かった。そして、矢崎は棺の中を観ようとしたのだが、その直前で体が止まった。なぜか矢崎は不安な感情を抱き、中を観るのが怖くなってしまったのだ。

 「精霊さん。この中に入ってるのって、もしかして……。いや、そんなはずは……。ごめんなさい、観られない。嫌です、観るのは嫌です!」

 矢崎はうずくまってしまった。

☆★☆

 すると、また光景が変わった。今度は、墓地に来たようである。

 矢崎の目の前に、一基のお墓があった。矢崎はそれを観ると、心臓が止まりそうになった。

 そのお墓には、

 「矢崎家乃墓」

と書かれていた。その脇の石碑には、はっきりと、

 「来次」の名前が書かれていた。

 「精霊さん! やはり、私は死ぬのですか!? さっきの棺に入っていたのは私なんですね!?」

 矢崎は叫ぶ。精霊は何も答えない。

 「精霊さん!! 未来は変えることができないのですか!? 今日まで3人の精霊さんたちといろいろな光景を観てきました。私は反省しました! もう昨日までの私ではないです!! これからは心を入れ替えて生きていきます!! ですから……。お願いですから……」

 矢崎は泣き崩れた。その様子を観た精霊の肩が震えているようだった。

 矢崎は精霊の両手を握り懇願した。しかし、精霊の姿は徐々に消えていくのであった……。

☆★☆

 第四章「第三の精霊」 完

 次回、最終章。

 12月24日(金)0時 公開予定。

 ※この小説はフィクションです。登場する人物等は全て架空の設定です。

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