転職しました。

2009/07/27 19:00:00

 初詣のおみくじは小吉でした。今でも覚えているのは、今でも手元にあるからです。

 次のようなこと、こまごま書いてありました。要約すれば「前半いろいろあるかもしれんけど、後半信じてファイト!」でしょうか。

 「このみくじにあたる人は、初は心の思うまゝに何事も成し遂げ難しといえども、はげみて時節を待たば後にしあわせあるべし」

 「病気は長引とも命にさわりなし」

 「よろこびは初めは思うようにならず後よし」

 「すべてこのみくじは初悪しく後よきかたちなり」

 境内で一読し、どうしてだろう、何だかとても気に入ってしまったのでした。今年1年のお守りにしよう、と、生まれて初めて神社の木に結ばなかったおみくじ……。おみくじを持って帰っただけの話で「生まれて初めて」というのも、少々大袈裟なものいいですが。

 2009年。実は早々に体調を崩し、この5月からは休職しておりました。前半が“心の思うまゝに何事も成し遂げ難”き状況だったかといえば、確かにそのとおりかもしれません。

 他にもいろいろな出来事や思うところがあって(そのうち整理して文章にできれば良いな、と考えてはいます)、タイトルの通りですが、転職しました。

 7月から、「特許翻訳家」として仕事をしています。

 ひとくちに特許と言っても分野は多岐に渡りますが、わたしの専門はもちろん(?)コンピュータ及び情報通信技術。とはいえ、その内容も実にさまざま。ビジネスモデル自体の保護が目的と思われる、調達から納品までのITシステムを包括する特許の後は、マイコン内蔵の機械部品について、微に入り細に入り説明する明細書に取り組んで。技術的な知識の“幅”については、開発者として会社にいた頃よりも広く求められていると感じます。(“深さ”は、それほどでもないですが。というより、このうえ深さまで求められたら、倒れますが。)

 既に5件ほどを英日翻訳しました。仕事をはじめてまず不思議だったのは、やたら英文がすらすら読めること。あくまで“当者比”ですけども。

 もともと英語は、ハリー・ポッターの第1巻を原書で読んだくらい大好き。ただ技術文の雰囲気には、どうも馴染めないと思っていました。単語の意味や修飾関係は分かるのですが、まったく話についていけないのです……。学生時分、ネットで英文特許を検索して読解に挑戦したものの、10行あたりでギブアップした覚えがあります。

(あの時から、何が変わって、読めるようになったんだろう……?)

 逆にいえば、こんな疑問。

(学生の頃に読めなかった1番の原因は、何だったんだろう?)

 ――ひょっとしたら、もう気付かれているかもしれませんね。会社員時代、語学に関して特別な努力をしたわけではありませんから、英語力はほとんど変わっていないはずです。

 仕事で英文を読んでいるときの、頭の動きを思い返してみました。

 すぐに分かりました。

 知らず知らずのうちに、内容の先取り、つまり予想しながら読むことができるようになっていました。

 例えば、(データなどを)“retrieve”(取得する)という単語にぶつかったとき。ほとんど反射的に、うっすらと“order”(整列/配列する)、“parse”(解析する)、などなどの単語と、そのイメージ映像が浮かんでいることに気づきました。いずれも「データを取得する」後に出てくると思われる処理で……明らかに、英語の勉強だけでは養えない連想回路。

 SE生活を通じ、いつの間にかこんなところが育っていたみたいです。さらに組み込みSEだったおかげで、回路図の読み方や素子の名称に馴染めたことも、大きかった。ある部品名を目にした時、パッとその姿形が思い浮かべられることと、説明を文法的に正しく解釈できることは、一見つながりが薄そうなのですが……文章を理解する、という大きな視点でみれば、どちらも欠くことのできない要素なのでしょう。

 考えてみれば幸せなことです。自分としては(ITつながりではあるものの)異業種に転向したつもりだったのですが、そこで技術者の経験が生かせているということ。また、前の仕事で――自覚こそなかったものの――ちゃんと成長してたんだよ、と、教えてもらった気がします。

 他ならぬ自分自身の成長ですが……むしろ自分自身のだからこそ、たまには特別の時間を設けて振り返ってあげる必要があるのかも。

 2009年後半、最初の1カ月が終わろうとしています。年初に立てた目標や計画を振り返って、前半の反省をされた方もいらっしゃるでしょう。反省というと、ついつい、達成できなかった項目や上手くいかなかった点に目を向けてしまいがちですが、まずは「達成できたこと」や「成功体験」を、心に並べてみてはいかがでしょう? ひとりでに“自然体の自信”が湧いてくること請け合いです。

6歳で心筋梗塞になって、学んだこと。

2009/01/20 16:00:00

【川崎病(かわさきびょう)】

 アジア諸国の乳幼児に多くみられる原因不明の急性熱性疾患。長期予後として発症から1~3週間後に10~20%の頻度で冠動脈に動脈瘤が認められ、まれに心筋梗塞により突然死に至ることがある。

(参考: 「川崎病」(2009年1月09日(金) 03:37 UTCの版)『ウィキペディア日本語版』

 小学1年生の冬。まさに私の心臓は血管に狭窄を起こし、心筋梗塞の状態になっていました。実際の入院期間は1カ月ほどだったのですが、幼い目は優に半年や1年、病院の白い天井を映し続けているように感じたものです。

 こんにちは、かわばたです。そんな思い出(?)が今年の初夢でした。おいおい……。

■コラムのサブタイトルを変えました

 年が明けたら変えようと思っていた、このコラムの筆者プロフィールやサブタイトル。サブタイトルだけがずっと思い浮かばなかったのですが、2009年お正月、この夢から覚めた瞬間に決定しました。

 『永遠に生きるかのように学べ。明日死ぬかのように生きろ』

 英語のことわざですが、本来は順番が逆です。

 Live as if you were to die tomorrow. Learn as if you were to live forever.

 元はマハトマ・ガンジーの言葉とされています。これを知ったのは高校生の時、英文法の授業中。仮定法過去の例文として教科書に出てきたのでした。

 紙上の一点を見つめ、しばらくこの短い文を味わっていました。後半部分の「永遠に生きるかのように学ぶ」、その境地を十分想像することはできなかったけれど……。

 「明日死ぬかのように生きる」――うん、それがどういう感覚か、私は知っている。

■もしも明日、目が覚めなかったら

 川崎病で入院しているあいだ、一度だけ転院しました。

 移動している間の記憶は全くありません。ある晩、急に胸を締め付けられるような痛みに襲われパニックになって、呼吸までおぼつかなくなり。駆け寄るお医者さん、看護師さんの足音。人工呼吸器の硬い感触。意識を取り戻すと、相変わらず白いベッドに白い天井。でもここは知らない場所――もと居た小さなかかりつけ院から、総合病院に来ていました。

 ここから治療が本格化しました。右腕に点滴、基本的に寝たきり。飲食は禁止。例外は水を1口、マドレーヌを1かけら。これで1日分です。

 みるみるうちに弱りました。筋力が低下し、自力では起き上がれません。体にはくっきりとあばら骨が浮かび、声を発することすらしんどい。そうした体の変化とは別に、気持ちの上にも新たな傷ができていました。

 夜が怖くなっていました。

 眠ることが怖くなっていました。

 (またこの前みたいに苦しくなるんじゃないか)

 いや、それどころか。

 (これが最後の『おやすみ』になるんじゃないか)

 川崎病は確かに重病ですが、適切な治療さえ施せば高い確率で生還できます。けれど当時の私は自分の病気について何の知識もありせんでした。仮に説明されていたとしても納得したかどうか……。ついこの間まで起き上がり、歩いて、走れたこの体から、今では日に日に自由が奪われる。この事実が私にもたらすものは、死に近づく感覚以外の何物でもなかったから。

 とはいえ ただでさえ体力の削られていた身。つい、うとうとと眠りに落ちては、「はっ!」と身震いし目覚める。確認。自分はまだ生きている。

 また今日も、起きられた。

 安心と感謝も束の間、夜が近づくにつれ戦々恐々とする毎日を繰り返していました。この不安をどう説明すれば良いのか分からなくて、誰にも決して打ち明けないまま。

■それでも私にできること

 転機は、隣のベッドの名前も知らないおばあちゃん。いや正確には……そのおばあちゃんがベッドにいたのか、誰かのお見舞いでおばあちゃんが来ていたのか。首を動かす力さえ失っていた私は、次の会話が行われていた風景を知りません。限りなく曖昧な記憶の中で、彼女の弱々しいほど穏やかな声だけは今でも鮮烈な印象を残しています。

 はじめは若い男性の声。愚痴をこぼしていました。最近は暗い空模様ばかりで気持ちまで沈む、とか何とか。

 おばあちゃんが応じます。のんびりとした鹿児島弁。

 「お天気はねぇ、しゃんなか(しょうがない)よねぇ。おてんと様のなさっこっ(なさること)じゃから」

 (…………)

 そしてまた、夜が来ました。その日も、夜が来ました。

 思えばこれは、当たり前のことなのでした。

 夜が来る、ということ。

 (これは、『おてんと様のなさること』だから)

 その日は不思議と毎夜の恐怖が薄かったように思います。自分はいま大事なことを掴みかけている。それだけは理解していました。

 次の朝、目覚めると答えが出ていました。

 (明日死んでも後悔しないためには、今日何をすればいいんだろう)

 質問の形をとっていましたが、これは確かに「結論」でした。そう、いま自分が考えるのはこれだけでいい。夜が来ること。眠たくなること。これは変えられない。これが現実。

 その中で私は、さあ、何をしよう。

 (……今日は、首を動かせるようになろう)

 別の日。

 (今日は、寝返りをうとう)

 (腕を持ち上げよう)

 (鉛筆を持とう。そしたら明日は字を書ける)

 いつの間にか欲張りになって、2~3日ほど先取りした目標を立てることもありました。

 (色鉛筆を使うのは、ふつうの鉛筆よりも力が要るんだなあ。……よし、明後日までにもっと楽にできるようになろう)

 こうして毎晩、閉じた自分の瞼が二度と開かない夢に怯えていた女の子は、自由に動く腕で書き上げた絵を誰かに見せて「上手ねぇ」なんて言われちゃって照れている、来週の自分をイメージするようになったのでした。

 そしていつしか理解していました。大事なのは成し遂げた内容よりも、目標を立てることそのものなのだと。

 1日の終わり。「本日の小さな挑戦」を思い返し、しばし満足感に浸ります。ずっと怖くて仕方なかった、眠りにつくまでの小一時間。この新たな習慣をスタートしてから、あっけないほど簡単に、1日のうちで最も楽しみな時間の1つになりました。

 いつも最後は、この言葉で締め。

 (よし。これで明日の朝、目が覚めなくても大丈夫)

 ……大丈夫なわけはないです。6歳児にして随分と、虚勢を張ったものですね。でも心の中でこう呟くと、たちまち力強く頼もしい幸福感に包まれることができました。

 それは台詞とは裏腹の、まごうことなき明日への活力。

■今は元気に過ごしています

 高校卒業まで定期的な心エコー検診は必要でしたが、おかげさまで後遺症もなく回復しました。

 退院間際は 病室にいながらにして「子供は風の子」を体現したような振る舞いを見せ、看護師さんから「本当に元気ねぇ」と笑われるまでに。こう言われたのは朝ベッドから飛び降りて談話室に向かう途中だったと思います。たぶん「置いてある絵本を今日中に2冊読む」といった目標でも立てていたのでしょう。

 絵本の内容は忘れてしまいましたが、それよりも少し前――自己流の指先リハビリも兼ねて、折り紙の裏に書いた「3か条」だけは覚えています。

 「おてんと様」の業に逆らわず、それでも自分でできることを精一杯やろうと決めた、あの日の気持ち。

 毎日を“いい日”にする3か条。

 文字数はさほどありませんが、書き上げるのに2日ほどかかりました。1文字書いては休んで、右手が動かなくなったら左手で、とやっていたことに加え、誰かに見られたら恥ずかしい気がして、こっそり書き進めていたためです。書き終わった紙も人が気に留めないような場所にそそくさと押し込み……数日して私自身もその存在をすっかり失念。退院後ひと月ほどたってから、はっと重大な忘れ物に気づきました。時すでに遅し。

 でも内容は、しっかり、覚えています。

 人生において初心に返るべき時というものがあれば、私の戻る地点は間違いなくここ。小学1年生の女の子でも思いついて実践できたのですから、本当にシンプルなことですけれど。恥ずかしながらご紹介し、今回のコラムを終わります。

 記憶を辿り、なるべく“原文ママ”で。

今日から まもること

1

じぶんで今から かえられることにだけ
しゅうちゅうすること。

お天気とか きのうしっぱいしたこととかに
なやまないこと。

2

朝おきたら、その日に これだけはやりたい ことを
きめること。

わくわくしながら はじめること。

3

よるねるまえに、もくひょうが
たっせいできたかどうか かくにんすること。

できていたら

じぶんでじぶんをほめること。

できていなかったら

じぶんでじぶんをゆるすこと。

「目的意識」至上主義(2)

2008/12/12 18:05:00

 自分が人生で目指すべき「何か」は、他の人なんかよりずっとずっと大きいはず。だから、飛行機が現れるまで待っていよう。一歩一歩進むなんてナンセンス。最短距離が見つかるまで動かないでおこう。全ての道が青信号になるまで、待っておこう。

* * *

【 悩んでいた彼女への返信 】

 前回のコラムに登場した悩み相談のメール、覚えていますか?

 自分にはエンジニアになって何をしたいかの目標がない、と悩む彼女。けれど現にエンジニアを目指して就職活動をしているわけです。それは、なぜ?

 ――彼女のメールにはきちんと、その答えが書いてありました。

 「小学生で最初に習ったときから何か面白いと思って」

 私の返信は次の通り。

 最初のコラムに書いた『ITで鹿児島を活性化したい』というのは、確かに私のやりたいことではあります。ですが(メールを頂いて、考えて、初めて気付きましたが)ずいぶん省略した言い方になっています。例えば『地元への貢献、その手段として何故、ITなのか?』……そう質問されたら、私にはこう答えるしかありません。

 コンピュータの世界に、何となく興味があるから。好きだから。

 つまり、○○さんと同じです。何か物事を『始める』のに、最初から明確なビジョン・目的意識を掲げて腰を上げる人もいるでしょう。ですがその物事を『続ける』には、手段としてこなす作業・行動自体に何らかの楽しみを見い出す必要があると思います。例えばダイエットのためにウォーキングを始めるようなとき。いくら健康という人間にとって重大な目的が先にあろうとも、歩くこと自体が苦痛で苦痛でたまらないなら、その習慣が『続く』ことはありえません。

 『なんだか、面白い』――これは物事を『始める』ときにも『続ける』ときにも有効なモチベーションです。これが最初から備わっているなら、それはとても素敵なことだと思います。あとはぜひ、親戚のおばちゃんにも『大変そうだよね。でも私はきっと、好きになれそうな気がする!』と宣言してほしいです。

 それで例えば3年くらい頑張ってみて、結果的に好きになれなかったら?

 ――まあ、それはそのとき考えても良いのではないでしょうか。

 (以下略)

【 バブルな夢に中身を与えるもの 】

 ……いまここに書くために自分の返信文を読み返したのですが、「親戚の“おばちゃん”」とは一言も言われていないのに、勝手に「おばちゃん」と決め付けて返事をしてしまいましたね、私。この場を借りてお詫び申し上げます(私信すみません)。

 前回のコラムでは、私自身の就職活動中に感じた次のようなことを言葉にしてみました。

 「私たち『最近の若いもん』は、インターネットをはじめ技術の進歩が『自分のできること』に対する制限をほとんど取り去ってしまったことを感じ取っている。『自分にも何か大きなことができる』という意識が進みすぎると、『身近な範囲で小さく行動するのは愚かなこと』と考える傾向が生まれるのではないか」

 就職活動中によく聞いたセリフで、「好きなことがない/見つからない」というものがあります。改めて話を聞いてみると、決して好きなことがないわけではないのです。何となく惹かれる分野はあったり、小さなころ熱中していたものはあったり――。「でもその程度の『好き』で仕事にしようなんて駄目」と自分でブレーキをかけてしまっているのです。それはなぜなら、「やろうと思えば自分には大きなことができる」のに、何となく面白そうだからと横道に反れて時間を浪費するなんて愚の骨頂だから……。

 少し大げさに書き下していますが、「仕事を始めるならしっかりした目標がなければいけない」という考え方に囚われている人は、確実に増えていると思います。件のメールをくれた彼女も、前回のコラムに「自分も大きく考えすぎていた気がします」との感想を寄せてくれました。ちなみに同い年の友人からは「『最近の若いもん』って、もう23(歳)はギリギリだよね」と言われました。大変にショックでした。それはさておき。

 ではこの具体的な一歩が分からなくなるほど抽象化した夢の足を、もう一度地に着けるにはどうすれば良いか?
 
 現実世界では、どんな夢を目指すにも、必ず消費しなければならない基本リソースがあります。そう、時間。どんな夢・目標も、叶えるためにはそれ相応の時間がかかります。その間、私たちは、夢・目標に達するための具体的な行動をとり続けなければなりません。そこで――先ほど返信メールの中で、次のような一言を書きました。

 「物事を『続ける』には、手段としてこなす作業・行動自体に何らかの楽しみを見い出す必要がある」

 できそうなこと、始められそうなこと。瞬間的に心惹かれるステージならば、この情報社会(もう情報“化”社会ではないですね)、いくらでも難なく見つけられます。それが目の前を横切ったら(もちろん、それが見つかること自体は素敵なことですから)、もう少しだけ粘って考えてみましょう。

 それを「続けている」自分が想像できますか?

 せっかく見つけた「夢」を小さくするようで嫌かもしれません。でも、とりあえずイメージを作ってみてください。どんな夢も最終的には連続した「タスク」にブレークダウンされてきます。道なりに並んだタスクがどんな内容であれば、1つ1つクリアしていけそうですか? 最初の作業は、どんなものが良いですか?

 これは実は、スタート地点について考えること。今までの「あれもできそう、これもできそう」と言っていた時間、思いはゴール周辺ばかりを巡っていました。せっかく目的地をあれこれ思い描いたのだから、次は今のあなたが、どこに、どの方向を向いて立っているのか、再確認する時間です。

 不思議なもので、考える対象をぐっと卑近なものにした瞬間、「これかもしれない」という道が見つかることがあるようです。――いえ、考えてみれば当たり前ですよね。スタート地点には現にあなたが立っている「地面」が必ず存在し、そこから少しずつ視線を上げていけば……「地面」がどこかに繋がっていくさまを、確認できるに違いないのです。

 以上――後輩に向けた、あんまり直接的には役立たないお手紙でした。

【 実は一番考えたかったこと 】

 このコラムを書くにあたり、一番恐れていたツッコミがあります。今のところどなたにも言われてはいませんが――。

 「考えるきっかけは『エンジニア志望の女の子のメール』だけど、内容的には全くエンジニアリングと関係ないよね?」

 ――はい、確かに。それを頭の片隅で気にしつつも、今回のような形にまとめてみました。

 その埋め合わせというわけではないのですが、別の視点から1つ気になることを挙げておきます。もう散々引用してきたメールですが、最後はこの一文。

 「親戚にプログラマーを目指してることを言うと、『すごい大変な仕事なんじゃないの!?』って心配されて」

 やはりこういったイメージがあるのだな……と考えさせられました。というより、私自身も身近な人に言われた記憶があります。ITの仕事はきついんでしょう、3Kなんでしょう、と(意外に『3K』という表現を知っている人は多い)。私はまだ経験年数的に「すごく大変」な局面に遭遇してはいないと思います。ですが、こうしたイメージの少なくとも一部は、誤解や先入観によるものだと感じます。

 何か……自分にできることを見つけて行動していきたい。そう考えました。

 「わざわざ、何を目的に?」

 そりゃあ、誤解が解けて仲間が増えた方が、家族にも心配されるよりは応援された方が、楽しそうじゃないですか。……何となく、ね。

loveletter ご意見・ご感想はこちらまで。

「目的意識」至上主義(1)

2008/12/05 18:00:00

 ひとつ手品を教えましょう。

 相手の心が読めてしまう、不思議な不思議なマジックです。

 まずは相手を1人選びます。男でも女でも構いませんが、いわゆる日本の「最近の若いもん」が宜しいでしょう。

 次の質問の答えを頭に思い浮かべるよう、指示してください。質問は、こうです。

 「将来やりたいことは、何ですか?」

 そこで相手の表情をじっくり観察――する必要は御座いません。落ち着き払った顔で「はい、思い浮かべました」と答える彼女。何だか急にそわそわし始めた彼。あなたはただ澄まして、こう言い当てればよい。

 「それは、『自分にしかできない何か』ですね?」

 これで、今のところ私は失敗知らず。ま、拍手でなくて苦笑いを頂くことも多いのですけどね。やってみたいなら自己責任です、悪しからず。

        *        *        *

 インターネットに国境はない――少なくとも一般論としては。

 「日本語が使える範囲」と限ってみても、あなたの動ける領域は過去のどの時代よりも広い。

 ある地域の中でオンリーワンになり、自分のできることを精一杯やっていれば、人生を全うできる時代があった。でも今は本気になれば、自分のスキルやアイデアを世界に問う、なんてことができてしまう。

 お金も、物も、世界の大体の場所に送ることができる。特別な資格は要らない。情報を得るのも流すのも、自宅に居ながらローコストでできる。特別なスキルは要らない。

 「できること」の制限が限りなくゼロになった今、「やりたいこと」を適正サイズに収めておくのは大変だ。

 あれも、これも、できそう。

 これも、あれも、やるべきではないか。

 放っておけば前向きな予感は、どんどんどんどん降り注ぐ。

 具体的な一歩を、まるで含まないまま。

        *        *        *

 こんにちは。かわばたです。

 先週末は貴船(きぶね)神社というところへ行って参りました。縁結びで有名な神様のところへ、女1人で。

 危うくただの寂しい人ですが、一応目的はカップル用のお守り。友人が結婚するのでプレゼントしようと思ったのです。

 最寄駅から約2.1km。澄んだ空気の中を歩きながら、出がけに受信したメールのことを考えていました。ITエンジニア目指して就職活動中の女性が、前回のコラムに感想を送ってくれたのです。

 掲載許可を頂いた部分だけ、抜粋。

 親戚にプログラマーを目指してることを言うと、『すごい大変な仕事なんじゃないの!?』って心配されて、そのときに何も言えなくなってしまいます。『大変かもしれないけど、自分にはこういう目的があるから』って自信を持って話せるみたいな目的意識が無いです。なので、このまま就職しても大丈夫かどうか不安になる時があります。

 ……「目的意識」。

        *        *        *

 いま歩いている私。目的地は、貴船神社。

 人生の目的や目標となると、もちろん話はこう簡単ではない。……らしい。

 個人の可能性が途方もなく広がっている現代。目的地として選べる候補が、無数に、無限の奥行きで現れている世界。

 一昔前まで立派な目的地だった場所が、単なる経由地になり下がった。技術の進歩により、あらゆる行程・タスクが効率よく処理できるようになった、という方向からの後押しもある。自分が「目標」としていたものをあっさりこなして、より大きなビジョンに向かう他人の姿が目に入る。

 目は、遠くまで届くようになった。でも、踏み出す一歩の幅は変わらない。目的地への距離が長くなればなるほど、寄り道の余裕はなくなっていく。

 早く、誰よりも大きなビジョンを見つけて、無駄なことはなるべくしないで、その最終目的地に向け邁進しなければならない。

 そうしないと――「自分にしかできない何か」には、永遠に辿り着けない。

 だから、「目的・目標は大きくあるべき」。若いうちから、最初から、そうあるべき。

 周りから褒められたいとか、立派な人間だと思われたいとか、そんなつもりはまるでなく……自らの心の声として、私たち「最近の若いもん」はそのように考えている。

        *        *        *

 ――最後の一言は随分と勇気を出して言い切ってみました。

 私自身の就職活動中、友人から相談を受けたり、同じ就職活動生の掲示板書き込みを読んだりして、個人的に感じていた事柄です。

 皆が言う「目的意識」は、ほぼ「自己実現」とイコールだよな、と(私はあまり何も考えていなかったので他人事調)。

 かつ、自己実現は並大抵のことでは達成できない、遠いゴールであるという共通認識がある。

 だから皆……会社の(つまり他人の)ビジョンに、ほんの一時期でも共感して時間を使うことそのものに、ある種の抵抗感を持っているような。

 自分のものではない夢に協力して、本当の自分を一生発揮できなくなる可能性を考えると、怖い――。進路の悩みを打ち明けてくれる人のほとんどが、胸の奥底でこう叫んでいるように聞こえました。 では、どうしたら良いのか?

 そもそも、そのメンタリティは適切なものなのか?

 考えたいことはまだまだあります。そのために、タイトルには連番を振らせて頂きました。

 ちなみに、先述のメールをくださった彼女には、既に私なりの返信を考えてお送りしてあります。今回の話とは外れるので掲載しませんでしたが、次回、次々回、話の流れ次第ではご紹介するかもしれません。

 親戚にプログラマーを目指してることを言うと、『すごい大変な仕事なんじゃないの!?』って心配されて、そのときに何も言えなくなってしまいます。『大変かもしれないけど、自分にはこういう目的があるから』って自信を持って話せるみたいな目的意識が無いです。なので、このまま就職しても大丈夫かどうか不安になる時があります。

 あなたなら、彼女にどんな言葉をかけますか?

mailtoご意見・ご感想はこちらまで

【 追伸 】

 本文中にも触れましたが、はじめてのコラムには色々なメールを頂きました。

 エンジニアを目指す学生の方、ご自身の新人時代や退職後の夢について教えてくださったベテランの方。「@IT自分戦略研究所」というメディアの大きさを、改めて感じた次第です。

 おかげさまで先週末はパソコンの前で1人「書いてよかった! 書いてよかった!」とはしゃぐ不審者でした。

 いえ、照れ隠しに茶化した言い方してますが、本心です。

 本当に、書いてよかった。本当に、ありがとうございます。

loveletter今回のご感想や雑談はこちらから(※担当編集者に送信されるのか? との質問も頂きましたが、私に直接届きます)

エンジニアライフ 最新の投稿コラム

@IT自分戦略研究所 新着記事

エンジニアライフ スポンサー

コラムニスト プロフィール

かわばたあい
1985年鹿児島県生まれ。組込みSEを経て、現在はIT関連の特許翻訳家。
大学中退や転職など、進路に悩んだ経験が、同年代以降の方の参考になると嬉しいです。

- PR -

@IT Special 注目企業
iPhoneアプリは外注?いやオレらが作る!
社内エンジニアに“檄文” 開発秘話公開

New!
【転職体験談】mixiに転職したエンジニア
8年間のSIer生活で得たスキルとは何か?

New!
→ インデックス

@IT Special ラーニング 
◆クライアント企業から求められる人材
⇒IT技術と経営戦略を併せ持つ「戦略家」

New!
◆気になる社会人大学院。興味はあるけど仕
事と両立可能?実際に通った6人に聞いた
→ インデックス