地方エンジニアが感じる地方・中小企業での悩み

ミスを許すシステム

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 何か間違いを犯すたびに執拗に攻められることも珍しくない今のご時世では、多くの企業がその防御のため、だけではないですが、自分たちが間違いを犯さないためにもセキュリティに関して非常に厳しく取り扱っていることと思います。コンプライアンスを独自に定義し、提供先のユーザーに対しても自分たちのコンプライアンスがこうなっているから、こういうことしかできません、と時に不便を強いることが多いのではないでしょうか。

 コンプライアンス自体は必要なのが間違いないのですが、あまりにそこを厳しくするあまりに、本来 IT は便利にするために存在しているにもかかわらず、むしろ不便にさせてしまっている一面がどうしても拭えません。

 コンプライアンスは元々法令を遵守するという意味合いなのですが、最近ではその枠を大きく超えて、モラルに関しても含むようになったフルセット・コンプライアンス論というのもあるように、法令のみならず社会的に問題とみなされないための定義が、これでもかとばかりに決められているのです。

 そのために、私たちは必要以上に制限された行動を行うこととなり、変な言い方ですが、企業コンプライアンスの緩い企業ほど、ユーザーの求めるものを提供する可能性が高くなってしまっています。また国による違いも大きく、国内企業が提供するサービスがどうしても海外から輸入されてくるサービスに勝てない場合が多いのも、コンプライアンスが一因を担っていると言える部分もあるでしょう。

 ここで改めて思い直してほしいのは、IT はユーザーを不便にするためにあるのではなく、便利にするためにあるものだということです。

 確かに IT には人を監視する、注意するといった行動を抑制するためにも利用は可能です。防犯において監視カメラが重要であるように、悪意を持って行動をする人に対しての抑止力となりえるのは IT の一つの特徴です。ですが、抑止にばかり目を向けるあまりに、本来の便利な道具たる IT という一面を忘れてしまっていたのでは、ユーザーにとって導入するメリットは殆どありません。

 ガチガチに固められたシステムでは確かに安全かもしれません。ですが、ある程度の自由さ、ある程度の危険な部分も時として必要なのではないか、そう私は考えます。何度かこのコラムでも扱ったように、ミスを完全に防ぐことは不可能に近く、ミスをリカバリできる仕組みであることこそが、最もユーザーのためになるものだと考えています。やり直しが聞かない仕組みでは、防げなかった一つのミスが致命傷となります。完全に防ぐことのできないものである以上、やり直しがきかない仕組みではいつか必ず、チェックをすり抜けたミスが発生します。

 そのためにどうすればよいか、となるとリトライを可能とする仕組み、ミスを取り返すことのできる仕組みであるのが、最も理に適っているのではないでしょうか。

 複数のチェック機構を用いて多層的にミスを検知する、検知できたミスには何かしらのリカバリ手段を用意する、これこそが理想的な仕組みなのだと思います。当然だからといって簡単に実現できる訳ではありません。多重なチェック機構を用意するということは、同時に行動のスピードを抑制してしまうことにもなります。このあたりはバランス感覚というか、利用者たちのさじ加減なところもあるでしょう。

 ミスは許されないから慎重にオペレーションを行うのは、確かに基本中の基本かも知れません。ですが、そこでミスが発生したら咎めるだけではユーザーが委縮してしまうことも十分にあり得ます。そうなっては生産性を高めることもできずに、仕方なくシステムを利用する現場ができあがってしまうことでしょう。

 システムを作り始めた時には、誰もそのような状況は望んでいません。誰しもが、せっかく作ったシステムですから便利になってほしい、そう願っているはずです。しかし往々にして、気が付いた時にはガチガチに固く締めあげるような仕組みにしてしまうことが多々あります。相手の要求をそのまま呑み込み、ただただミスをなくすために厳しくしている場合には非常によくなりえます。

 利便性を損なうほどに厳密なシステムは、利用者にとってそれほどメリットはありません。ミスのない結果を一つ出すのに10分かかるとして、ミスのリカバリで3分余計に取られても3件4件と倍の数の結果を出せる場合であれば、後者の方が大変メリットが大きいです。

 全ての面でそうだ、とはもちろん言い切れませんが、ほとんどの場面、数多くの場面においてはリカバリ手段ありきに仕組みを構築するのが、非常に有用な方針だと思います。制限するばかりでは、今よりも良い結果を生み出すことは非常に難しい事です。そうであるためにも、今一度も当初の目的に振り返り、これは何かを監視し制限するための物なのか、利便性を高めるための物なのかを考え直してみるのが良いのではないでしょうか。

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