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もしあの人がITを使ったら -第三話 聖徳太子

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 「奥さん、別れちゃいなさい!」

■聖徳太子のお悩み相談コーナー

 「夫に女がいるみたいなんです……」、「息子にどうやって勉強を教えたらいいか分からなくて困ってます」、「転職したいのですが自信がなくって……」、「ゲームをやっているとパパが怒るんだ」、「主人が転勤してばかりでついて行くのが大変なんです」

 「皆さんのお悩みは分かりました。ズバリ回答します。奥さん、別れちゃいなさい。そっちのパパはあべっかんの『イクメンから教育パパにキャリアアップする方法』を読みなさい。転職希望のサラリーマンはキャリアコンサルタント高橋さんに相談して。ゲーム好きな子はパパにくれあさんのコラムを読ませてみて。転勤族の奥さんはTKT48に入会しなさい」

 ふうっ、疲れた。でも一度に5人の相談を聞くこのコーナーは好評じゃ。これで私の支持率もどんどん上がっている。

■豊聡耳システムの限界

 「おいっ、妹子っ。おまえ『お悩み』を聞き間違えただろう。馬鹿者っ」

 「太子様、申し訳ございません。あの海幸彦と山幸彦の兄弟は声がそっくりで聞き分けられなかったもので」

 「そこを聞き分けるのがプロだろう。高い給料をはらっているのだからな。屏風の裏に隠れた5人のヒアリングのプロがそれぞれの相談者の悩みを聞き取る。それを紙に書いてこっそり後ろに出す。ヒアリングのプロがいてこそ、一度に五人の質問に回答できるのだ。この豊聡耳(とよさとみみ)システムによって私のカリスマ性が維持されるのだから失敗は許されないぞ。」

 (くせ者)そ、そうだったのか。屏風の裏に5人も隠れていたのか。これは特ダネだ。週刊誌に高く売れるぞ。

 ガタッ!

 「誰じゃ、そこに隠れているのは!」

 (くせ者)しまった。見つかった。逃げろっ!

 「くせ者じゃ、引っ捕らえよ。この豊聡耳システムの秘密を知った者は生かして帰すなっ!」

■スクープ!聖徳太子の豊聡耳のウソ

 「大変です、太子様。週刊ポテトにこんな記事が」

 うっ、この前逃げたくせ者のせいだな。まずい。このシステムはもうおしまいだ。私は豊聡耳でカリスマ性を維持していたのに。いったいどうしたらいいのだ。

 「太子さま。『安倍勘』という男が新システムを提案したいので太子さまに会いたいと言って来ているのですが」

 なに、新システムだと? 話を聞いてみよう。


■システム提案

 「私が提案する新豊聡耳システムはITという技術を使います。一度に10人の話の内容をコンピューターで自動的に解析して回答例を表示するというシステムです」

 「なに?10人もか。今までの倍だ。つまり、その『こんぴうたあ』という箱の中に10人の人が隠れているのじゃな?」

 「いえ、人が実際に入っているわけではありませんが(汗)、まあ、そんなようなものです」

 「ずいぶん高額だのう」

 「ここだけの話ですが、このコンピューターは21世紀の世界から密輸してきたものですから」

 「よし分かった。そのシステムを注文しよう」

■新豊聡耳システム稼働

 「あの週刊ポテトの記事はウソだったらしいぞ」

 「やっぱり太子さまはすごい。なにしろ10人の相談者の話を一度に聞いしまうのだから」

 「難しい勘定計算のことを聞いても一瞬で損益分岐点を計算してくれた」

 「やはり太子さまは偉大なお方だ」

 よしよし。新豊聡システムは調子がいいぞ。私のカリスマ性も一段とアップした。

■口は災いのもと

 「太子さま、新豊聡システムの調子はいかがでしょうか?」

 「おお、安倍勘か。おかげでバッチリじゃ。この靴ベラような板の裏に10個の質問と回答例が表示されるから私は選択するだけでいい」

 「その板は(しゃく)というものでございます。裏にスマホ用の液晶モニターをつけておりますので、文字もはっきり読めるかと思います」

 「そうか。笏と言うのか。見やすいし、これを持っていると格好も良い。それに10個の質問をちゃんと聞き取れておる」

 「マイクから取り入れた音声を、声帯の波長ごとに分けてコンピューターで解析していますから間違いはありません」

 「似た声の者がいても大丈夫かのう?」

 「もちろん大丈夫です。以前のように、海幸彦、山幸彦のような声がそっくりな兄弟が来ても聞き間違えることはございません」

 「ん? おぬし、なぜその話を知っておるのじゃ? 週刊ポテトにもそこまでは書いていなかったが」

 しまった、余計なことを喋ってしまった(汗)。

 「あ、さてはおまえはあのときのくせ者じゃな。週刊誌にリークした張本人か。皆の者、こいつを引っ捕らえよ!」

 やばっ、バレた。逃げろー。この世界にいては危ない。ブラウザをめくって第四話に逃げよう。

 第3話 完

■あとがき

 この話はフィクションです。また、第二話とは関係ありません。

 聖徳太子は一度に十人の話を理解できたため、豊かな耳を持ち聡明であったことから「豊聡耳」(とよさとみみ)と呼ばれていました。しかし実際は一度に十人の話を聞いたのではなく、順番に聞いてそれぞれに答えた。ただ記憶力が良かっただけだったのではないかという説のほうが有力だそうです。最近では、聖徳太子は実在しなかったという説も出てきて、歴史の教科書で聖徳太子の扱いが減ったようです。

 聖徳太子や百人一首に登場する大臣が右手に持っていた(しゃく)は、行事を行うときに式次第を書いたカンペを貼るためのものでした。この笏の裏には実は液晶パネルがついていたのではないかという学説も!(ありませんっ!)。

 あべっかんでした。

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