プログラマ、テスター、SE、PMなど、いろいろやってるオヤジです。

もしあの人がITを使ったら -第一話 サンタクロース(後編)

»

 前編の続きの小説です。

■良い行いは見られている

 「ど、どうぞ」

 倫子はお婆さんに席を譲った。

 梅尾倫子は疲れていた。今日は管弦楽部の演奏会のリハーサルだった。倫子は1年生。楽器を会場に運ぶのは1年生の役目だ。倫子はバイオリンを3つも抱えて中学と演奏会場を往復したのだった。倫子の家は学校から遠い。片道1時間以上かかるので朝は他のみんなより早く起きている。西武線で秩父駅まで座って帰れれば休めたのだが。

 お婆さんが3駅先で例を言って下車した。倫子が座ると今度はお腹の大きな妊婦が乗ってきた。倫子の両隣の青年たちは眠っている。さっきまではスマホを見ていたのに。倫子は再び席を譲った。

 2駅先で倫子が座ると、今度はサンタのような白い髭をした老人が乗ってきた。両隣の狸たちはまた眠っている。なんで私だけが立たなきゃいけないの? 私だって休みたいのに。寝たフリをしようかとちょっと迷った。でも、倫子は立ち上がった。

 「チャリーン」

 サンタシステムに倫子のポイントが貯まった。

 サンタシステムは順調に稼働している。お勉強や習い事で活躍するとよい子ポイントが貯まる。また、全国の至るところにある監視カメラで良いことが見つけられるとポイントに反映される。監視カメラは日に日に増えている。


■悪い行いは見られている

 しめしめ、引っ掛かったなナ!

 学校っていうのは会社と比べてセキュリティーが甘いんだよ。こうすれば簡単にバックドアを仕掛けることができる。そして10台の踏み台の学校PCを経由してサンタシステムに入り込めば誰が犯人かなんて分かるまい。俺様にとっては簡単さ。ちょちょいのちょいだ。あったあった。これがよい子のデータか。いただくとするか。

 Abekkan 100点、Kurea 30点、HiroC 40点、

・・・・・Game Over. You Lost!

 あれ? なんか妙だな、このデータ。

 「ピンポーン!」

 あ、誰か来た。また押し売りだな。俺はデータ搾取とコラムのコメントでの討論で忙しいっていうのに。

 「警察だ。穴菱だな。サンタシステムへの不正アクセス容疑で逮捕する」

 え、ど、どうして!?

 「フフフ、この私、中津山警部の頭脳をもってすれば、どんな不正アクセスだって見破られてしまうのさ」

 警部は得意になって体をサンバのように躍らせた。しかし、これは中津山警部の頭脳のおかげではなかった。サンタシステムには特殊なファイアウォールが設置されている。サンタクロースが用意してくれた魔法のファイアウォールだ。不正アクセスと判断するとダミーデータにアクセスさせる。ダミーデータを開くと逆探知機能が発動する。サンタシステムの監視機能と連動して居場所を突き止めて警察に通報するのだ。まんまと引っ掛かった穴菱は中津山警部に連行された。

 「くそっ。いいさ、また脱獄するまでだ。何しろ俺様は101回脱獄したエンジニアだからな」

 不正アクセスだけではない。監視カメラから入力されたデータは解析装置で悪事が行われていないかも判定される。今のところ解析の処理速度が追いつかないので一部の解析しかできていない。それでも、すぐに警察に通報される仕組みがあるということが抑止効果になって犯罪は減っている。



■素晴らしいITシステム

 サンタシステムにより、良い行いと悪い行いがポイントに反映される。他人に監視されるというのは嫌なものだ。でもサンタクロースに見られるのなら神様に見られているようなものだからいいや。そんな意識をみんなが持っていたので反対の声は挙がっていない。

 「良い行いも悪い行いも神様が見てますよ」と言う代わりに「良い行いも悪い行いもサンタクロースが見ていますよ」と言われた子どもたちは悪いことをせずに良いことをするようになった。まるでサンタクロースが神様になったみたいだ。日本は宗教に対する意識が低いのでこの意識が浸透したのかもしれない。サンタクロースを神とあがめて良い行いをする。日本はそんな国になりつつあった。

 サンタシステムのおかげで良い人が増えて悪い人が減った。こんな素晴らしITシステムが本当にあったら国民はきっと幸せだろう。そしてこんな素晴らしいITシステムの開発に携わることができたら、ITエンジニアはきっと幸せに感じることだろう。


■サンタ苦労せず

 「ふぉっふぉっふぉっふぉ」

 「クリスマスプレゼントはほとんど配り終わった。あとは日本だけじゃ。日本からはサンタシステムのよい子のリストが届いた。よい子がランク別に書いてあるから配るだけで済む。楽なもんだ。えーっと、日本に行ってもらうトナカイは君たちにしよう」

 サンタクロースは胴輪にAとHとFと書いてある3頭のトナカイにソリの荒縄をつなぎなおした。今年最後の締めの仕事に出発だ。

 メリークリスマス!

 (第一話 完)


■あとがき

 この話はフィクションです。実在する人物とは関係ありません。

 最初はサンタシステムから情報流出する事件の話を考えました。でも、サンタクロースが記者会見で謝っている姿を書くのはクリスマスに水を差すようでよくない。そう思ってハッピーで明快な話にしてみました。いかがだったでしょうか。

 第二話は年明けにでも。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する