いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

ドキュメントを見て分かる現場のこけ方 Part6 Excelで履歴管理する現場

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--ふれこみ--

 履歴管理は重要な業務だ。しかし、履歴管理にソフトを導入すると費用がかかる。余分な業務も増えるし学習コストもかさむ。だったら汎用的なExcelを使えばいいじゃないか。学習コストや導入費用もかけずに済む。

--実際--

 データの更新の際に誰が開いているから閉じてくれ、というやりとりが発生する。このやりとりをやっている時にインシデントが発生すると、記入漏れが生じやすい。また、ファイルにベタ書きなので人の書いた内容を間違えて消す、悪意を持った人が改ざんするということも起こりうる。

 そして、Excelで履歴管理をすると、どうしても項目が増えて以前コラムで書いた大きな表を書くときと同じデメリットが発生する。ただし、履歴管理ではそこまでデータのリレーションが複雑にならないので、データの錯綜に関してはあまり被害は無い。

 影響するのは検索のしかたや閲覧性だ。Excelのフィルタ機能を使う場合、必ず一番上の行を操作する。そして、最新のデータは一番後ろに出る。非常時にこれはうっとおしい。また、履歴管理では記入する項目もそれなりに多くなる。目的のデータを得るのはなかなか大変だ。

 また、入力時にも大きな問題がいくつもある。改行するのにAltキーを押しながらEnterを押すので操作性が悪い。無意識に入力する内容が減ってしまう。セルの縦幅の限界が546ピクセルだ。何回も追記すると、思うより簡単に達してしまう。そして入力内容が増えてセルが高くなるほど、スクロールする時の幅が広がり閲覧性が落ちる。入力補完の機能が地味に邪魔だ。

 入力する内容については、操作性が悪いことで多くの操作をしながら入力することになる。長い時間かけて記録したから、たくさん記録が残っていると錯覚しやすい。一度、入力した内容をテキストエディタに貼り付けてみよう。意外と入力した内容が少ないことに気づくと思う。Excelで入力すると、多くの情報を入力した錯覚を起こしやすいのだ。個人的にこれを、"Excelマジック"と呼んでいる。

--こけ方--

 いろいろ面倒なことは起きているのだが、それに気づかずに効率の悪い仕事を続けることになる。操作性が悪いので、対応に時間がかかる。だが、元々そんなものだと思い込むので、誰もおかしいとは思わない。効率の悪さに気づかないのだ。

 Excelマジックのせいで、しっかり記録を残しているつもりで、実際に入力している情報量が少なる。実質的な情報不足により、問題解決が遅れることも多い。検索性も悪い、内容も薄い、そういう履歴管理の方法を普通と思い込んで使い続けてしまう。

 入力の操作性が悪いため、対応した時の状況、対応方法を詳細に書き残すのに苦労する。視認性の悪さと記載内容の不足で、対策が考えにくくなる。結局、それが何らかのミスに繋がっていくわけだが、「やれることやってるからしょうがないよね」と結論付けられて、方法が改善されることが無い。

 誰かが開いている時に書き込めないというので、ファイルに共有設定をする人がいる。だが、同じタイミングでインシデントを追加すると同じ行に記入される。コンフリクトが起きて、片方が消されてしまうこともある。仕組みを知らないと人間関係が壊れることがある。そして、Excelの共有ファイルは何故かよく壊れる。何も考えずにコピペすると、ファイルのフォーマットも壊れる。そんなことで、何も考えずにExcelを使っていると、いろいろなものが壊れる。

 Excelでやっているのがベスト。そう思い込んで他の方法が思いつかなくなる。こけたとしても、こけたと気づきにくい。それが一番の問題かもしれない。

--解決方法--

 やってる本人に問題意識が芽生えないのでなかなか難しい問題だ。この問題は、本来個人で考えることではない。組織で問題を共有して解決策を模索するテーマだ。個人で思索するのも大事だが、組織への問題提起が一番の解決策になると思う。まず、Excelで管理することのデメリットを把握してもらうことだろう。

 本来であれば専用のDBを用意するのがベストだ。最近だとOffice365でAccessも付いてくるので、費用的な問題は解消できるようになってくるはずだ。ただし、AccessでDBを作るスキルが必要なのが一つの壁になる。管理するデータが大規模なら、相応の規模のDBは用意しておく必要がある。

 インシデントの数にもよるが、テキストで管理するという手もある。区分はフォルダの構成で分ける。記入する内容の濃さは確保できるし、コンフリクトも起きない。バックアップも簡単にできるし、画像ファイル等も一緒に保管できる。ただし、対応時間の集計が難しくなると思うので、そこだけExcelで行うハイブリッドな方式になると思う。

 少し変わった方法では、IMAPのメールを使うという手もある。サポート用のアドレスを作成して、インシデント毎にメールを出すのだ。この方法であれば、対応を行った時間に関してはかなり信頼できると思う。

 最近のメールソフトでは、仮想フォルダのような機能で検索内容をフォルダように表示することもできる。事前に入力規則を決めたテンプレートを作っておけば、いろいろなパターンで振り分けもできる。ただし、時間の集計には一工夫する必要がある。

--総論--

 障害管理は現場によっていろいろ取り決めが違う。条件も複雑で考えるべき要素が多い。専用のDBを立てても、使い方で宗教戦争が起きるくらいだ。入力の効率と分析の方法を両立させるには、高度な技術が要求される。

 効率が悪くても「しかたないよね」で済ましてしまう。改善するという発想すら起きなくなる。それが、エンジニアからただの作業員になる瞬間だ。こういう作業員ばかりの現場になると、改善方法を考える人が逆に浮く。

 残念ながら日本では、そういう現場の方が多い。同じ間違いを繰り返す理由を「難し」いで片付ける。まず、その現状に気付くのにこのコラムが役立ては嬉しい。

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