いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

世界遺産とITエンジニア

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▪️下鴨神社の境内にマンション

 京都に下鴨神社という世界遺産に登録された神社がある。下鴨神社の境内には糺ノ森という原生林が広がっており、ケヤキやエノキなどニレ科の落葉樹を中心に、約40種・4,700本の樹木が生育している。この森の一部を切り開いてマンションを建てるというニュースを見た。

 「世界遺産にマンションだと?ふざけるな、こんにゃろう!」と言いたいところだが、下鴨神社の維持費による資金難も絡んでいるようで、単純な問題ではないようだ。もし、マンションの建設が許可されると、世界遺産を売り物にしたマンションや商業施設が後を追って建設されるのではないかという懸念も出ている。

▪️苦しくなると禁忌に手を出す

 以前、引越しの際に不動産屋とこんな話をした。不動産屋は駅前にあったのだが、その周りに新築のマンションが何練か建設中だった。「いやー、立派なマンションですね。売れてますか?」と聞いてみた。「いや、全然売れて無いんですよ。」「オーナーさんも顔を真っ青にしてます。」とのことだ。

 ちょっとローカルな駅とはいえ、交通の便も良いし、駅から歩いて3分だ。そんな良物件の新築でさえなかなか売れないそうだ。最近では世帯数が減っているというのに、新築マンションが供給過剰だそうだ。

 住宅が供給過剰なのになんでわざわざ文化遺産に手を出してまでマンションを建てたがるのだろうか。不思議な話だ。神社の資金難がそうさせたか、売れ行きの悪い不動産屋が業を煮やしたか、誰かがすごく切羽詰まったので今回のような事態が起きたのだろう。

▪️世界遺産とITエンジニア

 世界遺産とITエンジニアには共通点がある。一つは貴重だということ。誰しもがIT技術者になれる訳ではない。資質が問われるし、育てるのに時間が掛かる。もう一つは、分かる人にしか価値が分からないということだ。

 世界遺産にしてもITエンジニアにしても、価値の本質は長い年月によって築いた積み重ねだ。短絡的な金銭計算で価値が決められるものではない。文化にしても、豊かさを手に入れて初めてその価値に気づく。ITエンジニアにしても、これから事業を発展させようとした時、ピンチに陥った時にこそ切り札になり得る。

 下鴨神社の糺ノ森にしても、価値の分からない人にとってはただの雑木林だ。ITエンジニアにしても、価値の分からない人にしてみれば、何も生み出さないただの穀潰しにしか見えない。ただ、価値の分かる人にとっては、かけがえの無い宝物なのだ。

▪️世界遺産からIT技術者の価値を考えてみる

 まず、自分たちITエンジニアの価値を自分の口で語り、誰かを納得させることができるだろうか?課せられた課題をこなせるだけの技術を持っているだろうか?納得させるだけの理由がなければ、誰もあなたの価値を見出してはくれない。課題をこなせるだけの技術がなければ見掛け倒しということだ。

 もし、納得させるだけの理由が無かったり、課題をこなせるだけの技術が無くても嘆くことはない。これらは長い時間をかけて築き上げていくものだ。二、三年働いたくらいで身につくものでもない。だからこそ価値のあるものなのだ。

 文化遺産には文化遺産たる理由がある。そして裏付けがある。だから価値があるのだ。それを活かすも殺すも、価値の分かる人間がどれだけいるかにかかっている。ただ、ITエンジニアは物ではなく人間だ。自分の持つ技術の価値を人に伝えていくことができる。

 下鴨神社の糺の森にしても、価値を感じる人が多ければ、神社の経営が切羽詰まる前に国が保護に乗り出したかもしれない。そもそも、不動産屋がそんな発想をしなかったかもしれない。価値を伝えることは大事だ。ITエンジニアは、もっと自分の価値を信じてアピールしていくべきではないだろうか。

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