いろいろな仕事を渡り歩き、今はインフラ系エンジニアをやっている。いろんな業種からの視点も交えてコラムを綴らせていただきます。

紙でできた巨塔(4) ヒャッハーーーッ、飯だーっ!!

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 むせ返るようなオフィスで北斗野は仕事をしていた。USBの扇風機についているおもちゃのような温度計を見ると、40度近くだった。どこの熱帯 雨林だというのか……。オフィスだけでない。廊下も暑い。中途半端な高層ビルなので開けられる窓が無い。小さな扇風機が回っていても、生ぬるい空気をかき混ぜるだけでまったく涼しくない。

 もう、限界だ。北斗野は喫煙室にある自動販売機に向かった。せめて冷たい飲み物でもあれば、元気が出るかもしれない。そう思い、財布から五百円玉を取り出し、喫煙室の扉をあけた。その時、北斗野は愕然とした。すべて”売り切れ”のランプがついていたのだ。

 何という事だ。この暑い中、冷たい飲み物も無しに仕事しろというのか。まだ夜は長い。ずっしり重い憂鬱さが襲い掛かってきた。こんな暑い中、仕事なんてできないよ。いっそこのまま、コンビニに行って逃げてしまおうか。そんな思いが噴出して、急に泣きたくなってしまった。

 あまりの暑さと売り切れの衝撃に、北斗野は思わず膝をついてうなだれた。疲れている時というのは、こういうトラブルの精神的打撃は大きい。もう、俺はだめなのか?壁にもたれかかったその時、空気が流れているのを感じた。ここ、ビルの中だぞ。風が起こるはずがない。

 何とか正気を取り戻したその時、そこにはコンビニの袋を持った、綺麗なお姉さんが立っていた。

「どうしたの、北斗野さん!?」

天使がお迎えに来たか?いや、俺はそんな善人ではない。というより、この程度では倒れはしても、死ぬほどではないだろう。暑さで朦朧とした意識を集中する と、そこに立っていたのは、いつも隣りの席で仕事をしている間宮さんだった。見慣れない私服を着ていたので、いつもより三割増しで美人に見えていたようだ。あと、メガネはプライベート用の方が可愛かった。

「ちょっと、大丈夫?はい、これ差し入れ。」

差し出されたのは、"チャージング・ゴー"という、よく冷えた栄養ドリンクだった。

「昭和なネーミングセンスだな……。コレ、効くのかよ。」

「さぁね。効きすぎて変身でもするんじゃない?」

 訳の分からないやりとりだ。暑さで頭が回らなくなってきたのかもしれない。暫くすると、エアコンからいつもの涼しい風が出てきて、理性が戻ってきた。

 間宮さんに聞いたところ、ビルの管理人が新人さんで、節電のために冷房を切ったそうだ。エレベータを降りた時、異様に暑かったので管理人に頼んで冷房をつけてもらったそうだ。

「下で南野さんとばったり会っちゃってね。北斗野君が頑張ってるって聞いたの。あまり手伝えることは無いけど、差し入れ買ってきたの。」

そう言って、コンビニの袋を差し出した。中には初音ミク「ザンギマヨおにぎり」、そして冷やし中華が入っていた。そして、間宮さんと談笑しながらのコンビニ弁当でのディナーを楽しんだ。コンビニ弁当がこんなにおいしいと思ったのは初めてだった。

 コンビニのディナーを終えて、少しの間、間宮さんは作業を手伝ってくれた。北斗野がテキストに書いたドキュメントをWordに張り付ける。そして、スタイルを適用していくと、綺麗に製本された印刷物のように仕上がっていく。

「すごいのね。Wordってこういうことができるのね。」

「あぁ、設定はいろいろあるけど、使うのは簡単だよ。設定したテンプレートがあるから、これ、使ってくれ。」

「あ、使わせてもらうわ。」

普段からPCを触っているので、やり方を伝えるだけで特に問題なくテンプレートを使いこなしていた。

「ただ、このテンプレート、本当に使いこなすためにはやっとく事があるんだ」

「え、何?」

「書きたいと思う文章をまとめておくこと。見たくれは整えてくれるけど、中身は人間が書くしかないんだよ」

「当然よね。」

当たり前の答えに、間宮さんは軽く笑った。そう、本当に当然のことだ。しかし、そんな当然を一段飛ばしにして炎上しているプロジェクトをいくつも見てきた。不思議と、偉いと言われる人ほど、この当然を軽く見るのだ。

 間宮さんが手伝ってくれたおかげでだいぶ仕事は進んだ。一人で作業していると相談ができず、自分の判断に確証が持ちにくい。ただ誰かとコミュニ ケーションを取りながらやるだけで、格段に迷いは減る。また、変に緊迫した空気でやるより、リラックスできる状態で作業をした方が数倍はかどるし、ミスも減る。そういう意味で、南野や間宮さんが来てくれてだいぶ助けられたようだ。

 このままいけば、順調にドキュメントが書きあがって、亀井部長をギャフンと言わせる事ができるのではないか?そんな風にも思えたのは夜中の二時だった。作業は大詰めだ。今夜は応接室の椅子で仮眠を取ることにした。

--続く--

Comment(2)

コメント

あらら

「で」と「一人」がすべて変換されているのかな・・・。
読みづらいw

Anubis

>あらら さん

ご指摘ありがとうございます。
修正しておきました。

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